EQ・(5)人間関係をうまく処理する

『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン、1998)に掲載されていたEQ5領域のうち、

今回は最後の領域である「5.人間関係をうまく処理する」について書きたいと思います。

過去に紹介した領域はこちらです。

著者は「人間関係をうまく処理する」領域について、

人間関係を処理する能力は、大部分が他人の感情をうまく受けとめる技術だ。第八章では、社会的知性とそれを発揮するために必要な能力について考える。この能力は人気やリーダーシップや調和のとれた人間関係を支える基礎となる。こうした能力に優れている人は、他人との協調が必要な仕事を何でもうまくこなす「社会的スター」だ。(p87)

と説明しています。

また、

社会的能力の優劣を決めるひとつのカギは、自分の気持ちをうまく表現できるかどうかだ(p207)

と述べていますが、それは感情表出の仕方でもあり、

一緒にいる相手、状況、場所、文化によって様々な感情「表出ルール」があるそうです。

その他にも人間同士が接触する度に起こる交流 =「情動の伝染」もあり、

人間は有害な出会いも有益な出会いもないまぜになった精神生活の地下経済とでもいうべき環境のなかで、互いに気分を伝達したり受けとめたりしている。このような情動の交流は、非常に微妙でほとんど気づかないレベルでおこなわれる。

~(中略)~ 感情は社会的ウイルスのように伝染する。

私たちは人と出会うたびに情動の信号を送り出している。そしてその信号が相手の気分に影響を与える。社会的に器用な人ほど、自分が送り出す信号をうまくコントロールできる。(p209)

といいます。

著者によれば、この情動の交流を上手に管理する能力もEQのひとつであり、

情動の交流が上手な人間は周囲の者たちを良い気分にさせるため、人気者であったり魅力的であったりするのだそうです。

確かに、過去周囲にいた魅力的な人々を思い返すと、

情動の交流が上手くあらゆる方面から送られてくる情動の信号を上手く受けとめ、

各方面ごとに器用にコントロールしながら自分の信号を送り返しているように見えました。

2人の人間が出会ったとき、気分は感情表現の強いほうから弱いほうへと伝染していく。ただし、中には他人の気分にとくに染まりやすいタイプの人間もいる。生まれつき敏感で、自律神経系(感情の動きを示す指標)が反応しやすいのだ。そのためか、このタイプはいろいろなことに感じやすい。センチメンタルなコマーシャルを見ただけで涙ぐむかと思うと、元気いっぱいの人と言葉を交わしただけで浮き浮きする(他人の感情に動かされやすいということは、共感しやすいということでもある)。(p212)

私はまさに上記タイプの人間で、20代の頃よりは耐性がついたと思いますが、いまだに反応しやすい気がします…

社会心理生理学者ジョン・カチオッポは、

人間と人間のあいだには情動のダンス、同調、伝播があるのです。相手との交流がうまくいったと感じられるかどうかは、気分的に同調できたかどうかで決まります(p213)

と言っていますが、会話を交わしている相手との交流が上手くいき、気分的に同調できたかどうかは、

相手と同じ身体の動きをしているかどうかで判断できます。

快不快問わず、会話している相手との身体的同調性が高いほど、同じ気分になりやすいそうです(これを利用した恋愛攻略法がありますね)。

ちなみに本書で紹介されていた、対人関係で重要な知性要素は以下の4つに分類されていました。

  • 組織力……人間のネットワークを作りあげ調整する、リーダーに欠かせない能力。演出家、プロデューサー、軍の将校、あらゆる企業や組織の有能な代表者などに見られる。
  • 交渉力……争いを未然に防いだり解決したりする調停能力。この能力に恵まれた人は取引きをまとめたり紛争を仲裁したりするのがうまく、外交、裁判(調停)、企業買収の仲介などの方面にむいている。
  • 連帯力……この能力をもった人は新しい人間関係を作るのがうまく、他人の感情や関心を的確につかんで対応できる。いわゆる対人関係術だ。連帯力にすぐれた人は優秀なチーム・プレーヤー、頼りになる配偶者、良き友人、良きビジネス・パートナーになる。職業としては、販売や経営が向いているだろう。優秀な教師になる素質もある。
  • 分析力……他人の感情、動機、関心などを洞察する能力。相手の感情を理解できれば、親しい人間関係を築くことができる。この能力が高い人は、優秀なセラピストやカウンセラーになれる。文学的才能が加われば、小説家や劇作家になれる。(p217、218)

著者は、上記能力は洗練された人間関係を営むのに必要な要素だと指摘し、

交際上手な人や社会的知性が発達している人は、自分自身の情動表現をモニターし、

他人の反応に熱心に目を凝らしながら気持ちを敏感に読み取り、自分の言動をいつも少しずつ調整して、

望ましい人間関係を構築できるよう気を配っていると指摘しています。

しかしながら注意したいのは、そうした対人能力と、自分が持つ欲求や感情のバランスが崩れている場合は、

心からの満足を犠牲にした人間関係であるため、人間カメレオンのようになってしまいかねないということです。

人間カメレオンは社会的器用さが、自分の感情を認識し尊重する能力を上回ってしまった場合に起こるそうで、

愛されるためなら ― 好かれるためだけでも ― 人間カメレオンは一緒にいる人の好みどおりに変わってしまう。一見とても好ましい人なのに長続きする親友がいないというのが人間カメレオンの特徴(p219)

で、

他人に好かれるためならば、言行の不一致など何とも思わない。外に向けた顔と内面を矛盾させたまま生きている(p219)

のだそうです。

さらに、

人間カメレオンは、自分の本心を正直に口に出さず、相手が反応を見せる前から意図を読み取ろうとして目を凝らす。人と仲良くし人から好かれるためならば、きらいな相手にも愛想をふりまく。さまざまな状況に合わせて自分の行動を変えるので、一緒にいる相手によってやたらに上機嫌だったり静かで控え目だったりと、まるで別人のように変わる(p220)

というのです。

著者の指摘通り、他人に与える印象を効果的にコントロールできるという点からすれば、

人間カメレオンは法廷弁護士、セールスマン、外交官、政治家など一部の職業では高く評価されるのかもしれません。

が、他人に好かれるために自分の欲求や感情を犠牲にし続けることは、健全な状態とは思えませんし、第一本人が辛いはずです…

いくら社会的知性が高くても、

自分自身に対して正直である能力、社会的にどのような結果になろうとも自分の中の最も深いところにある感情や価値観に従って行動する能力

を持っていなければ、誰でも人間カメレオンのようになってしまう可能性があるのです。

それだけEQ・(1)自分自身の情動を知る=自分の本心を厳しく監視することが重要なのだろうと思います。

EQについて数回に分けて書きましたが、、、

EQは、安易に取り込んではいけない危険なものだと感じました。

特にEQ領域1~5の順番が重要で、

1の領域を得られなければ他の領域を得ても何にもならない、むしろマイナスになると思いました。

それだけ基礎というか土台である、「自分の本心を知ること」が重要だと思います。

日本社会で生きていると大抵、自分の本心よりも社会的知性を求められます。

自分が何をしたいかよりも、村八分にされないよう所属社会に適応し、各社会を円滑に運営する構成員になることが求められます。

それは個人よりも社会が重視されていて、社会を円滑に運営することのほうが個人の幸せを追及することよりも、重視されているからだと思っています。

しかしながら、自分の本心を知らないままでは=自分自身の情動を認識できないままでは、

例え部分的に社会的知性を身に付けたとしても、いくら周囲から評価されたとしても、

虚しく人生を終える可能性が高い気がします。

『EQ こころの知能指数』を読んで、早い段階で自分の本心を見つけることがいかに重要か 考えさせられました。

タイトルとURLをコピーしました